高校新1年生のための、2020年大学入試共通テストに向けた対策について:第1回(全3回)
第1回:今の入試制度では、なにが問題なのか?
友達や周囲で、頭がいい人は誰ですか?
その人はなんで頭がいいと思いますか?
当意即妙に返事ができるとか、あるいはゲームが上手いとか言った理由かもしれません。
でもやっぱり頭がいい基準は、学校の成績で判断している面が大きいのではないでしょうか。八王子の学校の成績がよければ頭がよく、成績が悪ければ頭が悪いと考えます。
しかし今その八王子の学校の成績のつけかたが大きく変わろうとしています。それが大学入学のテストが大きく変わる2020年入試改革。対象は今年春から八王子の高校に入学する生徒達です。
一見すると、今年八王子の高校に入学する人達は悲惨です。本番で新形式の問題に戸惑ってしまったり、効率的な勉強方が見つけられなかったり、数多くの混乱が予想されるからです。普通の時でも受験間近になってから、慌てて受験のシステムを調べはじめる人がいるくらいですから、今回の大きな改革で起こる2年後の混乱は、もっと大きいことでしょう。
しかしこうした改革の波に振り回されることを嘆くより、チャンスだと前向きに考えることもできます。
この改革の波に振り回されてしまう人がたくさんいるならば、逆に言えば、新制度の対策を今からはじめておけば、他の人達より簡単に差を付けられるからです。もしかすると実際より一つ上のレベルの大学を狙うことも不可能ではないかもしれません。
ですので、これから3回に渡り、この入試改革と呼ばれていることについて、その改革を起こさなければならない原因と、高校新1年生が今からできる対策について、わかりやすくご説明したいと思います。
第1回目はなぜ変わるのか説明し、2回目は一番大きな変更をする英語対策について、そして3回目は高校1年生でも理解ができないことはない国語現代文の新しい試験の対策について説明します。
是非参考にして、これからの3年間を有意義に、楽しく過ごして下さい。
そもそも今行われている入試のシステムは、どうなっているのか。
高校受験を終えたばかりでは、改革という以前に、そもそも今現在の大学入試がどのようなシステムで行われているのかがわかりませんよね。
まずは現在の大学入試システムを簡単に説明しましょう。
2018年現在、全国の大学の数は779校で、そのうち国立大学が86、公立大学が89、私立大学が604校です。それぞれの大学で個別の入学試験が行われているのですが、国公立大学に進む場合は、1次試験と2次試験の二段階のテストを受けなければいけないことになっています。まず1月中旬に1次試験を受けて、それから2月下旬に2次試験を受験します。
その1次試験が、現在「センター試験」と呼ばれているテストです。これは全員が同じテストを受けます。その結果を見て、受験したい国公立大学に出願して、それから2月の後半に、すべての国公立大学で、それぞれ独自のテストを行って、センター試験とそのテストの合計点で合否が決まります。
なんで、わざわざ二段階のテストをするのでしょうか。
国公立と私立大学の入試で一番大きな違いは、併願ができるかできないかという点を押さえておきましょう。国公立大学はテストがあるのが全部同じ日です。一方で私立大学の入試日程はバラバラに分かれているので、二つ以上の大学を受験することができますが、しかし国公立大学の2次試験はすべて同じ日なので、2つ以上の大学を狙うことはできない仕組みなのです。
つまり国公立大学の場合、いきなり一発勝負でテストを受けることになるわけですから、全く可能性がない大学に出願してしまったり、あまりにも自分の能力とかけ離れた大学を選んでしまうと、一年を無駄にしてしまいます。
そこでまず一度受験生達全員で同じテストを行ってみて、その結果で、自分の点数が平均点とどれだけ差があるかを知り、自分の成績に妥当な国立大学へ出願できるようにしているのです。
そのうち、私立大学もセンター試験を利用して入学できるシステムを作りました。「センター入試」と呼び、私立大学にもよりますが、本来国公立受験のためのものだったセンターの結果を使っても受験できる枠を一部設けている私立は結構あります。
だから今では、国立大学を受ける人だけではなく、私立大学を受ける人も、事実上ほとんど全員がセンター試験を受けています。受験生は、ほとんど全員受けていると言っても過言ではありません。
そして今回の入試改革で大きな変更が加えられるのが、このセンター試験なのです。
名前は「大学入学共通テスト」に変わります。
かなり大きな改革であるということが分かると思います。
でもおよそ30年以上続いてきたこの試験制度を、どうして変えなければいけないのでしょうか?
変える、ということは今のものがダメだからですよね。
一体どこがダメなのでしょうか?
入試改革はなぜ行われるのか
30年以上も続いてきた試験制度を変えなければいけなくなってしまった原因は、次の5つです。
入試改革をする理由1――パソコンの普及
パソコンの普及によって私たちの生活は大きく変わりました。インターネットで本を買い電話もメールを送ることも、様々な連絡手段もパソコンを使ってすぐにできるようになりました。それに昔発売されていたゲームがインターネットで調べてしまえば、あっという間にクリアができるということも、2000年頃によく話題になっていました。
だからゲームに限らず、昔と今では必要なスキルが変わってきていて、そのスキルが現在の試験だとしっかりと調べられなくなってきているのです。
入試改革をする理由2――AI の進歩
2012年、AI(人工知能)の分野で「ディープラーニング」という手法が開発されました。今まではコンピューターは認識することができなかった画像などの認識が、ディープラーニングという方法が開発されたことによってできるようになったのです。この発見は、50年から60年のAI の歴史が変わったという意見もあります。
このまま順調に進歩が進むと、様々な仕事がAIでできるようになります。スーパーのレジなども次第に無人化が進んでいますが、あれがもっと大規模になっていくのです。たとえば医者の診断もコンピューターでできるようになるかも、と言われています。もしそうなると医者の仕事が次第になくなっていきます。
つまりAIでもできない仕事をこなせるような人材を育成するために、試験を変えようと考えているわけです。
入試改革をする理由3――仕事のあり方の変化
AIに限らず、今まであった仕事も変えていかなければいけなくなってきています。たとえば、単に消費者に求められていることをこなしていればよいだけではなくて、消費者が求めている欲求を聞かずとも予測し提案するといった能力が問われるようになってきているのです。
インターネットの通販の会社などは、お客さんの欲しいものを事前に予測し販売できることをめざしています。昔ならばお客さんから要望を聞いて、それに一つ一つ答えていけばよかったのですが、今はお客さんがどういう商品を欲しがっているかということをパソコンを使った大量のデータなどを手がかりに、お客さんが自分で気付くより先に、予測するのです。
こういう能力を、テストを変えてはかろうとしているのです。
入試改革をする理由4――グローバル化
30年前に比べて世界はかなり身近なものとなりました。当然外国人と一緒に仕事をしていく機会も増えていくことになるのです。そうした中で今までのように、英語をただ理解するだけでは問題が出てきます。外国人の人とお金の交渉をしたりする時に、相手の言っていることが理解できるだけではなく自分の意見をしっかり主張できないと、損をしてしまいます。積極的に海外に働きかけることが出来なくなってしまいます。
そこで英語の試験について見直しを図るようになったのです。
入試改革をする理由5――知識偏重主義の改善
今まででもセンター試験自体に問題があるとして色々議連をなされて来たことの一つに、知識偏重型だと言う問題がありました。できるだけたくさんの知識を詰め込み、たくさんのことを覚えれば解けてしまうという問題です。こうした記憶力だけの勝負では、記憶力に関してのツールがこれだけ発達した時代では本当に頭がいいということにはなりません。
その問題が大量に記憶できるパソコンの普及で、余計はっきりとした問題になったのです。
そうではなく思考力や判断力などを問う問題にしようと考え、改革がはじまったのです。
入試改革をする理由6――公平性の推進
また現在のマークテストは、全て限られた回答の中からひとつを選べば正解になります。運や勘で正解できているようなテストは真の学力をはかれているとは言い難いです。次第に技術的な進歩を進んできているので、マーク式以外の採点もスピーディーにできる物理的制約が取り払われてきたので、できるだけ平等なテストを実現しようとしているというのも今回の改革の一つの要因です。
まとめ
センター試験は、ほとんどすべての受験生が受けるとても大事なテストです。
それを改革するのは、グローバル化 IT 化といった社会的要因によって、社会が人々に必要とする能力が変わってきているからです。
この因果関係を押さえれば、自ずと対策が見えてきます。まず暗記ばかりをしているだけでは通用しなくなるということです。同時に積極的に意見を言ったり、与えられた知識を組み合わせる能力が必要になってきます。
では次回では、具体的に英語を取り上げ、その試験はどのように変わり、どのような対策をすればよいのかという点について、見ていきましょう。
参考
松尾豊「人工知能は人間を超えるか」(角川Epub選書)
田中道昭「アマゾンが描く2020年の世界」(PHP研究所)